睡眠時無呼吸症候群 脳に与える影響
睡眠時無呼吸症候群 脳に与える影響
睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)は字のごとく夜間睡眠中に呼吸が止まったり、止まりそうになる病気です。呼吸が止まることにより血液中の酸素濃度が低下し体に様々な影響を与えます。今回は脳への影響について説明します。
脳血管障害(脳梗塞 脳出血)
SASは動脈硬化や高血圧を合併しやすく、その結果、脳出血や脳梗塞を発症しやすくなってしまいます。1,022例を対象にした約3年間の追跡研究の結果によると、睡眠時無呼吸症候群(SAS)重症例では脳卒中・脳梗塞発症リスクが3.3倍になることが報告されています。またSASは脳梗塞・脳出血などの発症リスクを高めるばかりでなく、その予後の機能回復にも悪影響を及ぼします。また脳梗塞自体が呼吸中枢に影響を及ぼし、中枢性のSASを引き起こす可能性もあります。脳梗塞とSASは互いに発症リスクを増加させる関係性にあります。
精神疾患 うつ病
うつ病とSASを併発している方は意外と多くいます。SASを発症すると睡眠の質が低下するため、慢性的な睡眠不足や疲労感が生じ、心身ともにストレスがかかります。これによりうつ病などの精神疾患の発症に繋がります。SASの治療を行うことは、うつ病を始めとした精神疾患の改善も見込めると考えられています。また、抗不安薬には筋肉を弛緩させる副作用があるため、喉の筋肉が弛緩することでSASを発症するリスクが高まるとも言われています。
認知症
SASは認知症とも関係があります。脳に供給される酸素の量が低下すると、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβタンパク質が増えるといわれているためです。また、脳梗塞や脳出血によって脳細胞が壊死してしまうと脳細胞の機能が損なわれるため、血管性認知症を発症してしまう可能性もあります。重症OSA患者では、広範な認知機能の低下やMRI検査では海馬、左後側頭皮質、右上前回などの灰白質量の減少との関連が報告されています。約3か月間の CPAP治療により認知機能の改善と灰白質量が増加したという報告もあります。CPAP使用者は、未治療者に比べて軽度認知障害の発症が約10年、アルツハイマー病の発症が約5年遅かったといわれます。SASの治療を行うことは、認知症の予防にも効果的だと言えます。
この他にも慢性的な睡眠不足や低酸素による頭痛や記憶力の低下などが引き起こされたり、注意力や判断力の低下から仕事などでミスが増えストレスになったり、不慮の事故を起こす可能性もあります。睡眠の質の低下によって脳へ蓄積されたダメージは簡単になくすことはできず、ここで説明した様々な悪影響の形で表れます。それらを防ぐためにもCPAPなどを用いてSASの治療に取り組むことが大切です。